令3条の使用人にも及ぶ! 欠格要件(許可取り消し処分規定)について
建設業許可の令3条の使用人についても、法人や役員と同様、欠格要件や許可取り消し処分規定が及びます。
今回は、見落としがちな令3条の使用人の欠格要件や許可取り消し処分規定について、整理致します。
令3条の使用の欠格要件該当による建設業許可自主返納(NECのケース)
2022年9月にNECが令3条の使用人の欠格要件該当により、建設業許可を自主返納しました。
この件は、令3条の使用人が過去(2年前)に罰金刑を受け、社内の調査により、建設業許可における欠格事由(建設業法第8条第1項8号)に該当していたことが発覚し、廃業届出を行い、建設業許可を自主返納し、再取得することとした経緯でした。
概要
(出典:日本電気株式会社HP)
建設業法施行令第3条に規定する使用人(以下「令3条の使用人」)である当社社員1名が、欠格要件(建設業法第8条第1項8号)に該当していたものの当社への報告を怠っていました。当社は本年9月1日に本事実を確認し、9月2日及び同5日に許可行政庁に建設業許可の欠格要件に該当していることを報告いたしました。
その後、当社内での検討の結果、今回の事案の重大性を踏まえ、建設業許可を自主的に廃業することとし、許可行政庁に建設業許可の廃業届を本日提出し受理されました。
このように、許可を受けている建設業者の令3条の使用人が罰金刑を執行されたことにより、許可を自主返納せざるを得ないことになる場合があり、
最悪の場合は、許可取り消し処分を受け、その後5年間許可を取得出来ない状況に陥る可能性があるのです。
(このケースでは、許可取り消し処分の聴聞通知前に廃業届(自主返納)を届出ることにより、同法8条第1項第3号及び第4号の5年間の欠格要件には該当せず、廃業届出後に新規申請を行い許可を再取得しました。)
関係条文について確認してきます。
まず、既に許可を受けている業者については、許可の取消しについての条文があります。
建設業法第29条(許可の取消し)
一 一般建設業の許可を受けた建設業者にあつては第七条第一号又は第二号、特定建設業者にあつては同条第一号又は第十五条第二号に掲げる基準を満たさなくなつた場合 二 第八条第一号又は第七号から第十四号まで(第十七条において準用する場合を含む。)のいずれかに該当するに至つた場合 三 第九条第一項各号(第十七条において準用する場合を含む。)のいずれかに該当する場合(第十七条の二第一項から第三項まで又は第十七条の三第四項の規定により他の建設業者の地位を承継したことにより第九条第一項第三号(第十七条において準用する場合を含む。)に該当する場合を除く。)において一般建設業の許可又は特定建設業の許可を受けないとき。 四 許可を受けてから一年以内に営業を開始せず、又は引き続いて一年以上営業を休止した場合 五 第十二条各号(第十七条において準用する場合を含む。)のいずれかに該当するに至つた場合 六 死亡した場合において第十七条の三第一項の認可をしない旨の処分があつたとき。 七 不正の手段により第三条第一項の許可(同条第三項の許可の更新を含む。)又は第十七条の二第一項から第三項まで若しくは第十七条の三第一項の認可を受けた場合 八 前条第一項各号のいずれかに該当し情状特に重い場合又は同条第三項若しくは第五項の規定による営業の停止の処分に違反した場合 2 国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が第三条の二第一項の規定により付された条件に違反したときは、当該建設業者の許可を取り消すことができる。 |
このように第8条第1項第1号又は第7号から第14号までのいずれかに該当するに至った場合は、許可の取消し事由に該当します。
次に、8条の内容を見ていきましょう。
建設業法第8条(欠格要件)
第八条 国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次の各号のいずれか(許可の更新を受けようとする者にあつては、第一号又は第七号から第十四号までのいずれか)に該当するとき、又は許可申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、許可をしてはならない。 一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者 二 第二十九条第一項第七号又は第八号に該当することにより一般建設業の許可又は特定建設業の許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者 三 第二十九条第一項第七号又は第八号に該当するとして一般建設業の許可又は特定建設業の許可の取消しの処分に係る行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十五条の規定による通知があつた日から当該処分があつた日又は処分をしないことの決定があつた日までの間に第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出をした者で当該届出の日から五年を経過しないもの 四 前号に規定する期間内に第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出があつた場合において、前号の通知の日前六十日以内に当該届出に係る法人の役員等若しくは政令で定める使用人であつた者又は当該届出に係る個人の政令で定める使用人であつた者で、当該届出の日から五年を経過しないもの 五 第二十八条第三項又は第五項の規定により営業の停止を命ぜられ、その停止の期間が経過しない者 六 許可を受けようとする建設業について第二十九条の四の規定により営業を禁止され、その禁止の期間が経過しない者 七 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者 八 この法律、建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるもの若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)の規定(同法第三十二条の三第七項及び第三十二条の十一第一項の規定を除く。)に違反したことにより、又は刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四条、第二百六条、第二百八条、第二百八条の二、第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者 九 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から五年を経過しない者(第十四号において「暴力団員等」という。) 十 心身の故障により建設業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの 十一 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は次号(法人でその役員等のうちに第一号から第四号まで又は第六号から前号までのいずれかに該当する者のあるものに係る部分に限る。)のいずれかに該当するもの 十二 法人でその役員等又は政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者(第二号に該当する者についてはその者が第二十九条の規定により許可を取り消される以前から、第三号又は第四号に該当する者についてはその者が第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出がされる以前から、第六号に該当する者についてはその者が第二十九条の四の規定により営業を禁止される以前から、建設業者である当該法人の役員等又は政令で定める使用人であつた者を除く。)のあるもの 十三 個人で政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者(第二号に該当する者についてはその者が第二十九条の規定により許可を取り消される以前から、第三号又は第四号に該当する者についてはその者が第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出がされる以前から、第六号に該当する者についてはその者が第二十九条の四の規定により営業を禁止される以前から、建設業者である当該個人の政令で定める使用人であつた者を除く。)のあるもの 十四 暴力団員等がその事業活動を支配する者 |
まず、8条第1項第12号に政令で定める使用人のうち、第1号から第4号まで又は第6号から第10号までのいずれかに該当する者と定めがあります。
(政令で定める使用人=令3条の使用人)
このように令3条の使用人についても第1号から第4号まで又は第6号から第10号までの規定が及びます。
つぎに、7号で禁固以上(死刑、懲役、禁固)の刑と定められていますが、さらに8号では、規定するものについて罰金刑でも欠格要件(取り消し事由)に該当する旨が規定されています。
8号に規定する罰金刑で欠格要件(許可取り消し事由)に該当するもの 「建設業法」違反 「建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるもの」違反 「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」違反 「刑法」第二百四条(傷害罪)、第二百六条(現場助勢罪)、第二百八条(暴行罪)、第二百八条の二(凶器準備集合及び結集罪)、第二百二十二条(堕胎罪)、第二百四十七条(背任罪) 「暴力行為等処罰に関する法律」の罪 |
NECの令3条使用人は、この8号に規定されている罰金刑を受けていました。
令3条の使用人にも及ぶ欠格要件(許可取り消し事由)の整理
令3条の使用人が、次の事項に該当する場合は、欠格要件(8条)又は許可取り消し処分対象(29条)となります。
対象 | 建設業法第8条第1項 |
破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者 | 第1号 |
一般建設業の許可又は特定建設業の許可を取り消され、その取消しの日から5年を経過しない者 | 第2号 |
一般建設業の許可又は特定建設業の許可の取消しの処分に係る聴聞通知を受け取った後、廃業の届出をした場合に届出から5年を経過しないもの | 第3号 |
聴聞通知を受け取った日から取消処分がされた日(取消処分をしないことの決定がされた日)までの間に廃業の届出をした場合、聴聞通知を受け取った日から遡って60日前までの間に当該廃業届出をした法人の役員等若しくは政令使用人であった者(個人事業主の政令使用人を含む。)で、廃業届出の日から5年を経過しないもの | 第4号 |
建設業法第29条の4の規定により営業を禁止され、その禁止の期間が経過しない者 | 第6号 |
禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者 | 第7号 |
「建設業法」違反、「建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるもの」違反、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」違反、「刑法」第二百四条(傷害罪)、第二百六条(現場助勢罪)、第二百八条(暴行罪)、第二百八条の二(凶器準備集合及び結集罪)、第二百二十二条(堕胎罪)、第二百四十七条(背任罪)、「暴力行為等処罰に関する法律」の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者 | 第8号 |
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者 | 第9条 |
心身の故障により建設業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの | 第10号 |
では、もし自社の令3条の使用人が上記の欠格要件(許可の取り消し事由)に該当してしまったら、どうしたらよいのでょうか。
起きてしまった場合の対処法(8条1項7号と8号のケースについて)
7号 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者 8号 この法律、建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるもの若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)の規定(同法第三十二条の三第七項及び第三十二条の十一第一項の規定を除く。)に違反したことにより、又は刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四条、第二百六条、第二百八条、第二百八条の二、第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者 |
いずれの条文も刑に処せられとなっておりますので、刑が確定し執行された場合に適用されます。
その為、事件が発生しても起訴された段階では、まだ刑が確定していませんので、起訴から刑が確定される前までに、当該令3条の使用人を変更すれば欠格要件に該当せず、建設業許可の取り消し事由にはなりません。
なお起訴された場合は99%有罪となるようですが不起訴の場合は問題となりません。
これらの事を踏まえ、未然に防止する方法として次のような対応方法が必要かと思います。
これからの対応方法
新たに令3条の使用人を選任する際の確認就任予定者が、過去に7号、8号に規定する刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から5年を経過しない者でないか、又他の欠格要件についても問題ないか、十分確認を行い選任する。 |
現任の令3条の使用人への欠格要件の周知と報告義務の徹底現任の令3条の使用人に対しては、自らが直接建設業許可の欠格要件に関わることを自覚していただき、対象となる欠格要件についても理解していただくとともに、もし欠格要件に該当し得る事象が発生した場合は、速やかに管理部署への報告することを義務付け周知徹底する。 |
現任の令3条の使用人に7号、8号に規定する事象が起こったら当該令3条使用人から報告を受け、事件の状況について確認を行い、起訴後であっても刑が確定するまでに令3条の使用人の変更を行い、その変更日から2週間以内に管轄行政庁へ変更届出を行う。 |
まとめ
全国に建設業の営業所を多く設置している会社様においては、登録している令3条の使用人が何十人といる会社もございます。
役員の欠格要件については気を付けていても、何人もいる、ましてや本社から距離が離れている各営業所の令3条の使用人については管理が行き届かず、NECのようなケースも決して他人事ではないと思います。
また、7号の禁固以上の刑については理解していても8号に規定される罰金刑について、さらに過去5年以内の状況についてまでは、見落としやすい部分であると思います。
対応の遅れによる許可廃業から再取得や取消し処分となりますと会社にとっては多大な損失となりますので、十分注意が必要です。